They’re So Fine
僕は音楽を熱心に聴き始めた頃からライヴ盤が大好きだ。これは恐らく日常的にライヴに接する機会が少ない地方都市に生まれた事が大きく影響しているのだと思う。今でこそ地元の盛岡市でも外タレのライヴが少ないながらも行われるようになったのだが、僕が10代の頃はそんな事は絵空事でしかなく、見ようとするならば新幹線で東京に向かう以外方法は無かった。だからこそライヴ盤で自分の満たされない欲求を補っていたのだろう。
高校を卒業した辺りから金銭的にも少々余裕が生まれ、1990年に大学進学で上京した後はそれこそ可能な限り、見たいバンドは見まくった。恐らく最低でも月に一回はお金を工面して何かしらのライヴに足を運んでいた筈。しかしながら馴れとは恐ろしいもので、1年も経つと見始めた頃の高揚感や感激は薄れ、棒立ちで観察でもするようにライヴを見るようになってしまった。自分が本当に好きなバンドの場合はステージから遠く離れた2階席だろうが、武道館の天井付近の席だろうが、まあどこでも大声出しながら見てたけどね。でも自分がそれ程思い入れの無いバンドだったり、よく聴いた事が無いバンドの場合は棒立ちどころか着席したまま音だけ聴いてる、なんてのが常だったなあ。
90年前半、毎年東京ドームでは大晦日にロック系のフェスが開催されていて、大学の仲間数人でライヴ見ながら年を越す、というのがその頃の僕らの年末の過ごし方だった。90年と91年の2回足を運んでいる筈なのだが、91年のイベントはMETALLICAをトリとして、EUROPE、TESLA、そして英国のTHUNDERが出演していた。僕らの世代にとってはMETALLICAは神様みたいな存在なので、当然彼らがお目当てだったのだが、まあその他に関してはそれなり、トップバッターのTHUNDERに至っては「誰?」、「なんか最近イギリスで人気あるらしい・・・よ?」なんて扱い。はっきり言ってしまえば全く期待していなかったし、見なくても後悔しない、と考えていたのだ。彼らのパフォーマンスを見るまではね。
一曲も聴いた事が無い、それどころかバンドの連中の風貌や名前さえ判らないバンドなのに、演奏が終わる頃には拍手喝采、もっと見ていたいなんて思ったバンドは未だに彼らだけだと思う。とにかく客を煽るのが上手いバンドだし、攻める時は攻める、退く時は退く、緩急織り交ぜた楽曲が目白押しなのだ。それはパワフルにも繊細にも歌いこなせるダニー・ボウズの歌唱力の高さに因るところが大きいと思うし、何の飾り気も無いシンプルなロックンロールがベースになっている音楽性ゆえの事なのかもしれない。自然に体が動いてしまうリズムと言えば良いのかな。
そう思ったのは僕だけでは無く、一緒に見ていた友人達も「いやあ最高だった」とか「CD買うぞ」なんて興奮気味に話してた。始まった頃には静まりかえっていたドームが終演時には歓声に包まれていたのだから、やっぱり周りのお客さんも同じ思いだったんだろう。実際このライヴを契機としてTHUNDERの日本での人気は爆発的に上昇したしね。
たった一年ほどで忘れてしまったライヴの良さを彼らは僕に再び教えてくれた気がする。
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