With a little help from my friends
僕は大学では一応、英文科専攻だったので当たり前の事なのだが英語のみで授業が進められる事が多かった。今考えてみれば講師陣も非常に丁寧で聞き取りやすい英語で話していたのでリスニングやカンバセーションで苦労する事はあまり無かったのだが、面倒だったのが英文での論文作成だ。年に数回長文を作成して提出しなければならなかったのだが、こればかりは毎回辞書を片手に1ヶ月ほど悪戦苦闘する羽目に陥るのが常だった。
大学2年の夏、60年代のアメリカに於けるカウンターカルチャーについての論文を作成する、という宿題が与えられた。つまりその時代における文化について何でも良いから自分で調べて論じなさいという事だったのだが、一浪で入学した僕でさえ1970年生まれなので60年代の記憶なんてある筈も無い。そこで講師陣が「60年代の文化を象徴する物」を生徒に例として示す為に、ビデオスクリーン付きの大教室を使って説明してくれると言う。「何を見せるんだろう?」と思って僕ら生徒は大教室に集まったのだが、その時上映されたのがドキュメンタリー映画「ウッドストック」だった。
ウッドストックとは1969年8月にニューヨーク州で開催されたフリーコンサート(入場無料のコンサート)で、未だ伝説として語られるフェスティバルの一つだ。まだ音楽が音楽以上の力を持つと信じられていた時代、ベトナム反戦運動やヒッピー・ムーヴメントと連動する形でウッドストックは行われ、当時の若者はここから時代が大きく変わると考えていたのだ。
僕が「ウッドストック」の映画をちゃんと見るのはこの時が初めてだったのだが、中でも強烈に印象に残ったのがJoe Cockerのライヴ・パフォーマンス。何かに取り付かれたように全身を痙攣させながら彼が歌うThe Beatlesのカヴァー「With a little help from my friends 」には鳥肌が立った。実はこのカヴァー・バージョンを聴くのはこの時が初めてだった訳ではなく、前年の大晦日に東京ドームで見たBon Joviがアンコールで演奏したのがまさしくこの曲だった。ただしその時は誰の曲か全く判らず、同席した友人の「多分The Beatlesの曲だと思うんだけど・・・?」という一言だけが残った。あまりにも原曲からかけ離れたアレンジだったのでThe Beatlesの大ファンの友人にもそれが事実かどうか確信が持てなかったのだ。
これを機にやっと誰の曲か判明したので早速CD店でJoeのアルバムを購入、とにかく繰り返し「With a little help from my friends 」ばかり聴いていた。それまで聴いていたハードロックやヘヴィメタルとは少々異なる音なんだけど、とにかく魂のこもったJoeの歌にすっかり魅了されてしまったのだ。
思えば「色々な音楽をジャンルにこだわらず聴いてみよう」と考える様になったのはこの時の経験がきっかけかもしれない。それまでは自分の好きなものだけが良いもので、それ以外は全部ダメなんて考えていたのだが、それはただ単に無知・食わず嫌いなだけであって、自分の知らない所にも良い音楽が幾らでも存在しているのにそれを知らないまま死んで行くのはあまりにも勿体無いと思ったからだ。
正直に言って大学で学んだ事が今の自分の日常に役立っているのかどうかは判らない。でも、その時代に経験した事の多くが今の自分自身を形成する上で大きな意味を持っている事だけは間違いないみたいだ。
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