Crying in the shadows

高校生になってバンドを始めてからはどっぷり洋楽に漬かる事になったのでそれ以降、邦楽のレコードやCDを買う事はほぼ無くなってしまったのだが、86年のまさしく今頃の時期に日本人による一枚のシングルレコードを購入している。
昨日亡くなってしまった本田美奈子の「The Cross〜愛の十字架」がそれだ。
この曲はアイルランドのギタリスト、Gary Mooreが提供した曲で原題は「Crying in the shadows」。当時、両者の日本におけるレーベルが共にEMIだったという関係から、この「Crying in the shadows」を本田美奈子にカヴァーさせるという企画が生まれ、それと同時にGaryによる元バージョンも日本でのみシングルリリースされる運びとなった。勿論「The Cross」の方は日本語詩、キーも女性が歌うという事で原曲よりも高いのだが、曲を書いた当のGaryもレコーディングに参加してギターを披露している、という事で大のGaryファンだった僕は購入したのだ。
当時の本田美奈子は飛ぶ鳥落とす勢いの人気アイドルだったからして勿論この曲もヒットしたし、Garyのギターもいつも通り最高だったんだけど、僕には「でもしょせんアイドルのカヴァー・ヴァージョンだからなあ・・・」という認識ぐらいしか無かった。ただこの頃から上手い歌い手であった事は確かで、マドンナ崩れみたいな安っぽい歌謡曲を歌うよりもこういうムーディーなバラードを歌った方がこの人には合ってるんじゃないかなあとも感じた。
つい先日なんとなくこの「The Cross」が聴きたくなって久々にレコードを棚の奥から引っ張り出してきたんだけど、後年ミュージカルスターとなる布石はこの辺りにあったのかも、なんて事を考えていた。
今となってはこの曲は彼女の鎮魂歌に聴こえてしまう。

ワイルド・フロンティア

ワイルド・フロンティア

87年発表。Garyの代表作の一つで、ケルト音楽とハードロックの融合がこの作品において見事に果たされている。「Crying in the shadows」は86年に日本だけでリリースされた後、このアルバムのCDのみにボーナストラックで収録された。