The Horror

人間誰しもが少なからずトラウマを抱えているものだが、僕にとっての幼少期のトラウマは下記の映画だったりする。

サスペリア プレミアム・エディション [DVD]

サスペリア プレミアム・エディション [DVD]

イタリアの映画監督、ダリオ・アルジェントによるオカルトホラーの傑作なのだが、僕が小学校1年だった1977年に日本で劇場公開され大ヒットしている。
その昔、僕は異常なまでに臆病な子供だった。遊園地のお化け屋敷なんて前を通るだけでもチビりそうになる程で、ホラー映画なんて持っての他。でも70年代から80年代に掛けては時間に関わらずホラー映画のテレビCMが当たり前に放送されていた時代だったので(確か今は夜の遅い時間以外は流しちゃいけないんじゃなかったかな・・・?)、夕方の子供番組を見ていたりするとこの映画のCMが唐突に流れちゃったりする訳ですよ。当然テレビの画面からは目を逸らすのですが、音だけはしっかり聞こえてる。で、この映画の有名なコピー「決して一人では見ないで下さい・・・・」という不穏なナレーションが半ば強制的に聞こえてくる、それも女の人の絶叫と共に。もう小学生のガキにはトラウマ必至、怖くて寝れなくなるんですな。
もちろん当時は映画館に見に行くような無謀な行為は行いませんでしたが、劇場公開から数年経つとテレビで放送されるじゃないですか。で、我が家の場合、兄貴が大のオカルト好きなので僕も強制的に同席の上、見る羽目になっちゃう訳です。確か小学校3〜4年生の頃に実際の作品を初めて見たんだと思う。
この作品、魔女が題材になっているのですが、得体の知れない不気味さが全編を覆っています。極彩色に彩られたビジュアルも不気味だし、盲目の男、夜に飛び回る鷹、一切言葉を発しない顔が崩れた男、感情を排したかの様な貴族風の女性達、深夜の嵐、夜の闇に浮かび上がる寺院などなど、その全てのイメージが不穏。それらのイメージは実際に存在する物ばかりなのだが、それが「魔女」という現実離れしたテーマと融合する事によって、恐怖が倍増するのだと思う。つまり魔女までもが現実に存在するのではないか、と。
え、見てどうだったかって? そりゃあ怖かったですよ。でも、それと同時に僕もオカルト好きになっちゃったんですな、これが。いや、オカルト好きになった、というよりはダークな物に心を惹かれるようになった、と言う方が正しいかもしれない。恐ろしさの中に美しさや楽しさを見つけてしまった、と言うか。これはとどのつまり「怖いもの見たさ」なんでしょうね。これ以降は貪る様にホラーばっかり見る少年時代を過ごしたなあ。
でも、僕が中学、高校のホラー全盛と言われた80年代は所謂「スプラッター映画(血まみれのゴア・ムービーですな)」が主流だったのですが、あれらの作品を怖いと思って見た事は一度も無いですね。だってあまりにも現実離れしすぎているから。ホッケーマスクを被った死んでも死なない暴漢(ジェイソン)とか、縞々のセーターを着た鉄爪の男(フレディ)とか、殺人人形(チャッキー)とか、「こんな連中いる訳ねえだろ!!!!!」と毎回大笑いしながら見てましたわ。直接的過ぎるビジュアルって「恐怖」にとって、それ程大きなファクターにはなり得ないんだよな。やはり恐怖にとって一番重要なのは世界観。現実と虚構の狭間、この位置が一番恐ろしさを感じさせてくれる。
あと、音楽の持つ力も大きいよね。それらの80年代のスプラッター映画って主題歌がメタルバンドの曲だったりするから、こちとら怖がるよりも頭を振りたくなるんですよ。でもこのサスペリアとかエクソシストなんかはとにかく音楽まで不気味。その理解し難い不気味な音楽が恐怖に拍車を掛ける。(そういえばどっちの作品もプログレッシヴ・ロックバンドが音楽を担当してますな。サスペリアはイタリアのバンド、Goblinが音楽を担当。エクソシストの場合はMike Oldfieldの「Tubular Bells」という既存の曲をテーマ曲として使用した。因みにこの「Tubular Bells」、メガストアで有名なヴァージン・レコードの第一弾リリース作品だったりする。今ではRolling Stonesも所属するメジャー・レーベルのヴァージンですが70年代当時は前衛的な音楽をリリースするマイナーレーベルでした)
ああ、なんだか取り留めの無い長文になってしまった。まあ、とにかく僕の場合「トラウマ=好物」になってしまった訳で、盆休み最後の日にこの作品のBOXセットを1万円払って購入、それで暑気払いした、というお話だったんですよ。
そうそう、監督のダリオ・アルジェントの娘であるアーシア・アルジェントヴィン・ディーゼルの「トリプルX」でヒロイン役でしたね)も美しさの中に冷たさや不気味さがあって僕は心惹かれますな。